励磁ユニット用電源の詳細設計と製作

以前の記事でフィールドコイルタイプ・スピーカーの励磁用電源装置の設計について書いています。
今回ユニットが手に入ったことから本格的に励磁用電源を設計し、製作してみました。手に入れたスピーカーのフィールドコイル抵抗は5200Ωタイプです。前回記事にした励磁用電源設計でも同じ規格のフィールドコイルに対する物でしたが、改めて設計するに当たり、供給できる電力範囲をより広範囲にできるよう見直しをかけています。これは私のものと同じタイプと思われるユニットがebayに出品されており、出品者が提示していた電流値が私が想定していたものより大きかったことに端を発しています。この出品者が示していた必要電源の値は360V-67mA=24.12Wでありこの値を供給できるよう最大供給電力25Wにて再設計を行いました。また前回記事には掲載していなかった整流・平滑回路部分も今回の実製作に合わせて設計を行いました。設計のコンセプトは前回と同じです。
L/Rの2つのユニットに1台の電源装置で対応します。整流・平滑路は1回路、電流出力回路はユニット1台につき1回路とします。製作にかけるコストを極力抑えるために手持ちの真空管やトランス、チョーク、コンデンサを活用できるように設計しました。今回の励磁用電源装置は手持ちを活かした結果、数千円レベルの持ち出しで済みました。全部品を新規購入すると残念ながら10万円近くになってしまいそうです。
<設計編>
設計のコンセプトをおさらいします。
①5極管(6L6G)使用の疑似定電流出力型によるフィールドコイル電源供給
②整流・平滑回路部分も高インピーダンス設計
前回・今回とも出力管の選定は6L6G(手持ちの関係)としています。この出力管にとって60mAの電流出力が67mAに増えても余裕度の点では問題はありません。今回は設計上電流上限70mAとします。6L6Gの動作基準点を前回と同じEb=120V,Ec2=120Vとした場合、ここを最大電流出力ポイントとするとフィールドコイルの電圧降下(V)はV=70mA*5200Ω=364.0Vとなり、整流・平滑回路の出力点の電圧は大まかに120V+364V=484Vとなります。出力増強の結果、前回の計算値よりより高圧の電源回路が必要となることがわかりました。前回は6L6Gの動作を0バイアスで計算しましたがカソードに抵抗を入れて電流帰還回路を設けることにより一層の高出力インピーダンス動作を狙います。仮にカソードに30Ω程度の抵抗を挿入した場合、70mAの電流が流れるとEc1には約2.1Vのマイナス電圧が発生します。カソードバイアス分を考慮すると整流・平滑回路の出力電圧は486.1Vとなります。基本的な動作条件が揃いましたので設計に移ります。
回路”構成”はカソードバイアス部分とグリッド抵抗を除いて前回記事と同じです。
最大出力発生点における6L6Gの動作はEbb=486.1V, Eb=122.1V, Ec2=120V, Ek=2.1V, Ec1=0Vとなります。Ec2=120VはEbbの電圧を抵抗による電圧ドロップにて供給させます。この抵抗両端のドロップ電圧は366.1Vとなります。Ec2からグラウンド間(120V)には前回設計同様に固定抵抗と可変抵抗を直列につなぎます。仮にEc2に流れ込む電流を”0mA”とするとEc2からグラウンド側の合成抵抗値とEc2から供給電源側の抵抗値の比率は120:366.1=約1:3となります。最小電力側の求め方は基本的に前回の記事と同様です。
結果として、R1=3kΩ, R2=15.92kΩ, VR=20kΩ, VRk=30Ωにて希望の出力範囲をカバーできるという結論に至りました。

電源回路は、5AR4両波整流コンデンサインプットの2段チョークです。電源トランスの2次側タップは450V端子使用にて必要電圧が得られました。整流管の後ろに電圧調整用の抵抗を入れようかと考えていましたが、結果的に必要電圧が思いのほか高かったため、抵抗を入れることはありませんでした。
6L6Gのヒーター回路は不必要かもしれませんが手持ちのショットキーバリアダイオードブリッジをいかしてDC点火にしました。
<製作編>
中身にはこだわるができるだけコストを抑えたいという今回の主旨に沿って手持ちの部品をまずおさらいしました。
手持ち品リスト
1) 450V出力のある電源トランス(電流容量170mA)
2) チョーク2個(電流容量170mA)
3) 10μFオイルコン(2個)
4) 6L6G(WESTINGHOUSE)2本
5) 5AR4(National=松下)1本
6) FUSE,FUSE-BOX
7) ACコンセント,ACケーブル
8) ヴォイスコイル信号入力用陸式スピーカー端子(2回路分)
9) オクタルソケット3個
10) 電源用スイッチ(両切り)
11) ショットキーバリアダイオードブリッジ
12) 抵抗類(手持ち分)
購入必要部品
1) 電流メーター(Maxスケール100mA)2個
2) 電圧メーター(Maxスケール500V)2個
3) メーター切り替えスイッチ 2個
4) 抵抗類(セメント他) 必要数
5) UT-7Pソケット(P232への出力用)2個
6) 電源回路用コンデンサ20μF 1個, 6800μF 2個
7) オイルコン取り付け金具
8) シャーシ
9) ラグ端子類
購入必要部品の中で一番コストがかかりそうなのはシャーシです。タカチあたりで気の利いたシャーシを購入すると2万円くらいかかりそうです。今回は○○-Offでジャンクのミニコンポ用チューナーを1,000円で調達しました。天板に250mm×260mmの穴をあけそこに部品搭載用のアルミ板1.2mmtを設置する構想です。天板に部品類を配置するため外観はちょっとしたパワーアンプのようになります。ミニコンポ用チューナーをシャーシとしたためかなり部品類が込み入った状態になってしまいました。部品配置がかなり近くなってしまったため、整流管と平滑用コンデンサの間にはアルミ板を切り出して衝立てを作成し設置しました。部品搭載用の天板は放熱効果を狙ってシャーシ本体から3mmほど持ち上げ隙間を開けています。

<動作テスト>
出来上がったフィールド電源供給装置をいきなり60年も昔のユニットにつないで動作不良により壊してしまうのはあまりにも危険なため、2chのダミー抵抗に接続し正常動作の確認と電力調整範囲の確認を行いました。その結果、最大出力25W/chと最低出力10W/chが確認できました。前回心配していた基本設計の間違いや調整範囲の不足もなくびっくりするほど順調でした。

ユニットを箱に組み込む前に裸の状態で電源装置に接続し音出しを行いました。ここで問題が発覚しました。フィールドコイルの断線修理を行ったユニットのボイスコイルがポールピースにタッチしているようで、ある程度の音量になるとガサガサとした異音が発生します。ヨーク(励磁マグネット全体)を取り付けているダンパー横の4本のボルトを緩めてマグネット全体をある程度フリーにして音出しをしながらヴォイスコイルタッチの発生しないマグネットの位置を出しました。そしてその位置でマグネットを完全に固定しました。
<設置編>
今回はAltec 515BをMagnavox P232 15インチに置き換えることが主目的です。私のシステムは515Bが825コピーBOXにインストールされています。ユニットの取り付け穴は当時の規格だったのでしょうか全く同一になっていますので取り付け穴をあけなおす必要はありません。ただしユニットの奥行きがP232の方が若干大きく(2cm位?)裏蓋がヨークと干渉します。偶然ですが干渉位置にスピーカー入力端子が設置されており、これを取り外すことにより干渉は回避できました。本物のオリジナル825BOXの場合はこのようにはいかなかったかもしれません。励磁時代のP232のキャビネットとしては平面バッフルや後面開放型の導入事例が多く紹介されていてフロントロード・バスレフの825BOXへの導入事例は検索しても出てきませんでした。まずはスピーカー端子を取り外した裏板ありの状態で視聴をを行いました。
<視聴の条件>
ソース:LP(Jazz)
レコードプレーヤー:Garrard 301 アイボリー(オイルタイプ)
トーンアーム:SME-3012R
カートリッジ:Ortofon SPU-Mono G Mk2, SPU85 Anniversary+昇圧トランス
イコライザ:吉柴音響LCRタイプ(電源セパレート化改造)
プリアンプ:自作6SN7 内部パラ接続,2段増幅(前段2ch+500Hz LCクロスオーバー+後段4ch)600ΩブリッジTアッテネータ
パワーアンプ:低域用=吉柴音響UV-845Singleモノブロック×2
パワーアンプ:中高域用=自作2A3シングルステレオ
中高域用ユニット:Altec 288D+805Bホーン
キャビネット:Altec 825Bコピー国産箱(米カラ松)
ポン付け状態で励磁電源出力24Wの定格値でいきなり鳴らして出来を確認したところ未調整とは思えない瞬発力のある低域が出てきてやはり励磁タイプの潜在能力の高さは只者ではないと思いました。500Hzクロスでの中高域ドライバーとのつながりも自然でこれ以上の調整は不要かと思えるほどでした。励磁ユニットは供給する電流値の調整でかなりの範囲で音の佇まいが変わるといいます。クロスオーバーも515Bの時のままでありヴォイスコイル径が小さくより高い周波数の再生能力が高いと思われるP232には別のマッチングポイントがあるかもしれません。またユニットから見ると想定されていなかったフロントバスレフの箱に入れられていますが、裏蓋をなしにして後面開放型の要素を取り入れるとまた違った様相を見せるのではないかと思います。また長年倉庫にしまわれていたユニットを何十年ぶりに稼働させるのですから積もったコリを解消していくにつれて自然と変化がおこるものと考えています。本当は今回はフィールドユニット導入の第一歩でやらなければいけないことはきっと山のようにあるのだと思います。この記事をお読みになっている皆様はここをこう調整するとこのような変化がみられるといった記事を期待されていると思いますが、当面新しい(古い?)ユニットがこの構成になじむまで調整をいじらずにじっくり音楽を楽しんでいきたいと思います。

取外したALTEC 515Bユニット

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