スピーカー・ユニットの自作⑮ 磁気回路の検証 その3

2014/6/24追記
磁気回路の再検証記事をアップしましたので以前の検証記事の計算部分には訂正線を引いておきます。
以下本文
スピーカーボックスになる予定の材料が配達されたようですが、不在と勘違いされてまだ手元にありません。
予定を変更して磁気回路検証の続編です。

ギャップの磁束密度10,000Gaussを達成するためには

今回製作したユニットの磁気回路を検証してきましたが、φ28.0のSS400センターポールを使用している関係上、飽和磁束密度が小さいためフィールドコイルのパワーを上げてもギャップの磁束密度は頭打ちとなってしまうことがわかりました。おさらいです。飽和磁束密度を1.8[T] で計算した場合を考えます。まずφ28の丸棒の断面積は14*14*3.14×E-06=6.158E-04[㎡]となります。この丸棒を通過できる総磁束は飽和磁束密度×断面積ですから1.1108E-3[Wb]と計算されます。ヴォイスコイルボビンの径φ29.0の位置での断面積は幅15mmを考慮すると29*3.14*15×E-06=1.367E-03[㎡]より、ボビン部分の磁束密度は1.1108E-3[Wb]/1.367E-03[㎡]=0.811[T]となります。即ち8110[Gauss]です。

制約となっているセンターポールの総磁束を上げるためにはセンターポールの径を上げるか、飽和磁束密度の高い材料に変更する必要があります。

 前回の記事であげた飽和磁束密度の高い材料であるパーメンジュールに興味が出てきましたので少し調べてみました。

ちなみにセンターポールの材質をパーメンジュールに変えると同一形状でもギャップ部の磁束密度は11,039Gaussまで向上します。

 パーメンジュールは基本的に鉄とコバルト50:50で構成された合金ですがコバルトの比率を50から48程度に下げて残りの2をバナジウムに置き換えたものがポピュラーなようです。パーメンジュールは非常に高額でこれを用いたユニットの単価設定は100万円オーバーなっているようです。本当にそんなに高いのでしょうか?

Webで調べてみましたが、ズバリ単価を公表している企業はみつかりませんでした。取り扱っている企業を数社見つけたので問い合わせてみようかとも考えましたが、冷やかしではないものの買わないことを前提に見積もってもらうわけにはいかないので原材料コストから推測してみようと思います。

今回製作したユニットのセンターポールはφ28.0で長さ102mmの丸棒です。
この体積は6.158E-04×102/1000立法メートルです。これを計算すると6.28067E-05立法メートルとなります。イメージしやすくするため立法センチで表すと62.8立法センチです。

鉄の比重は7.86でコバルトの比重は8.90です。これを重量比50:50で合金ににすると仮定します。今回はバナジウムは無視します。同じ重量の鉄1に対するコバルトの体積は0.883となります。

合金の比重を計算すると、比重は7.86×2/(1+0.883)=8.35となります。

62.8立法センチのセンターポールの重量は62.8*8.35=524.3gです。

コバルトは重量でこのうち半分ですから、ステレオ2本では元に戻って524.3gとなります。コバルト原材料の価格を調べた結果、2014年2月現在1オンス当りUS$14あたりを推移しています。1オンスは約28.35gですからセンターポール2本分のコバルト原材料価格はUS$1=100円として、524.3/28.35×14×100=25,891円となります。

鉄はあまり高価ではないといえこのコバルトを元に合金を作ったときいくらになるのか見当もつきません。


実行計画に移す予定は今のところありませんが、今回の反省を踏まえてSS400でもギャップ部分の磁束密度10,000Gauss以上が確保できる新しいユニットが設計できないか考えてみました。センターポールをあまり太くするとヴォイスコイル径が大きくなり高音再生に不利かなと考え、センターポールの径φ34.0でギャップ幅(磁束の飛ぶ距離)1.5mm(オリジナルは2mm)まで規格を上げてみましたがSS400の飽和磁束密度1.8[T] では8,800Gaussが目いっぱいです。SS400の磁束密度がもし2.2[T] あればほぼ10,000Gaussが達成できます。またこれをパーメンジュールに変えるだけで12,000Gaussが達成できてしまうこともわかりましたが、使用するコバルト原材料費だけでも39,600円で、あまりにも高価なため採用はできそうにありません。


ここまで書いて気づきましたが磁束密度を上げる手段は材料変更、センターポールの径UPの他にもう一つありました。ギャップの幅(振幅方向)です。今回の設計でヴォイスコイルはφ29のボビンにφ0.18のエナメル線を1層あたり44ターン巻いています。2層合計88ターンで直流抵抗約6Ωで設計しています。巻幅は約7.9mmです。設計コンセプトはショートヴォイスコイルなので、このヴォイスコイルが作動中に磁気ギャップから外れてはいけないという制約があります。磁気ギャップの幅を15mmに設計したのは、7.9mm幅のヴォイスコイルが最大3.55mmまで振幅してもギャップから外れないようにしたかったからです。この部分を克服できれば磁気ギャップの幅を狭く設計でき、ギャップ部分の磁束密度を増加させることができます。方法としてはエナメル線の径を小さくして直流抵抗を増加させることとヴォイスコイル径を大きくして線長を長くすることです。

上記で検討した条件に加えて、φ0.16のエナメル線を使用し、ヴォイスコイル径をφ39.0まで大きくしたとき、
ヴォイスコイル巻幅は5.2mm(DCR7.12Ω, 32ターン2層)となり,ギャップ幅を2.7mm狭くしても同じストロークが確保できることがわかりました。即ち15mmのギャップ幅はストロークのみを考慮した場合12.3mmまで狭くしてもよいということになります。SS400板材の選択には厚さの制約がありますので、実際は13.6mmのギャップ幅が見た目のバランスもよさそうなのでこれを採用します。磁束密度を最大まで上げることにはなりませんが、考え方を変えるとストロークが3.55mmから4.20mmまで増えることになります。

ここまでやると、SS400即ち飽和磁束密度1.8[T]を使用しても、ギャップ部の磁束密度は現状の8,110Gaussから9,808Gaussを得ることができます。これでほぼ目標達成です。ちなみに飽和磁束密度2.45[T]のパーメンジュールではギャップ部磁束密度は13,350Gaussになりますが、ここまでできればパーメンジュールは使わなくても大丈夫という気がしてきました。

次回はあらためて、箱の製作および結果のリポートをしたいと思います。

コメント

タイトルとURLをコピーしました