スピーカー・ユニットの自作⑰ 磁気回路の”再検証”

自作したフィールドコイルタイプのフルレンジユニットの磁気回路について過去に何回か検証を行っていますが、ポールピース及びヨーク材質(SS400)の透磁率について固定値を用いて一律に計算していました。
透磁率はB-Hヒステリシス曲線の傾きにあたる値なので磁場の強さによって変化します。今回はその点を考慮に入れて新しく計算する方法を思いついたのでそれを記事にします。
以前書いた記事については、不正確な部分がありますが、取り消し線を入れたうえで、何が書いてあったかはわかる状態で残しておきたいと思います。
では以前に書いた記事を少しベースにはしますが、改めて記述したいと思います。
まずはユニット磁気回路部にまつわる諸元一覧です。
ポールピース部
・形状は丸棒(φ28mm,長さ102mm)
・材質は構造用鉄材=SS400
ヨーク部全般
・厚さ9mmの SS400板
・トップ及びボトムプレートのサイズ=125mm×110mm
・サイドプレートのサイズ=90mm×110mm
その他
・トッププレートの表裏に各1枚 ギャップ厚さを調整するために3mm厚みの丸円板を配置
 (材質はSS400)
・この円板を併用することによりギャップ厚みを15mmとした(9[mm]+3[mm]+3[mm])
ギャップ部
・ヨークのトッププレート側穴径はφ31mm
 (ポールピースがφ28mmのためギャップ幅Lgpは(φ31-φ28)/2=1.5mm
・上述の通りギャップ厚みは15mm
フィールドコイル部
・エナメル線径=0.18mm
・コイル線長=4,180m
・コイル直流抵抗=2,700~2,800Ω(実測値)
・コイル巻き数=24,265(推定値)
です。
これに
・真空の透磁率=4π×(E-7)=1.25664×(E-6) [H/m]
・SS400の飽和磁束密度=1.8[T] (18,000[Gauss])
を加味して計算を進めます。
実際はエクセルの専用シミュレータを作成して以下の計算を行わせています。
最初に計算するのはギャップ部分に発生させることが可能な最大磁束密度です。
磁気回路中、ギャップ部分をのぞいて磁気が通る方向に垂直な断面積を考えたとき
ヨーク部分とポールピース部分ではポールピースの方が断面積は小さくなります。
ヨークとポールピースには同じ材質のものを利用するため、磁気を強くしていった際には
ポールピースが先に飽和状態となります。この時のギャップ部分の磁束密度が
最大磁束密度となります。
ポールピースの断面積は
(φ28/2)×(φ28/2)×π/1,000,000=0.00061575[㎡]
です。これにSS400の飽和磁束密度を掛けるとポールピース飽和時の
通過磁束Φ[Wb]が計算できます。
Φ[Wb]=0.00061575[㎡]×1.8[T]=0.00110835[Wb]
この磁束が連続してGap部分に到達すると考えてこれがすべてヴォイスコイル周上(φ29.5)の
厚さ15mmの円筒面を通過する場合、この円筒の断面積Svc[㎡]は0.00139[㎡]ですから
Gap部分の最大磁束密度Bgp(Max)[T] は
Bgp(Max)[T]=Φ[Wb]/Svc[㎡]=0.00110835/0.00139=0.797374[T]
となります。即ち約8,000 [Gauss]です。
これはフィールドコイルの励磁条件をいくらあげていってもポールピースが磁気飽和
してしまうため、ギャップ部分では上記以上の磁束密度が得られないという結論を
意味します。
最大磁束密度(上限)が規定されている磁気回路において必要な磁束密度を改めて設定し、
それに対して必要なフィールド電力について計算します。今回はポールピースが磁気飽和を
起こす少し手前の 0.76[T]にGap磁束密度を設定して計算してみたいと思います。
フィールドコイルに供給された電力を源とした起磁力により、磁束ができます。
この磁束は磁気回路に沿って1周する閉回路となっています。電気の場合の電流と同じように
磁気回路を1周する間に枝分かれがない限り磁束の総数は不変と考えます。
即ちポールピース部分の磁束=ギャップ部分の磁束=ヨーク枠部分の磁束
と考えることを基本とし、この関係性から各部の磁気抵抗を算出します。
ギャップ部分の磁気抵抗Rgpは
Rgp=Lgp(ギャップ幅)/{真空の透磁率×断面積}
=1.5×0.001/{1.2566×E(-6)×0.00139016}
=858654.099[A/Wb]
と計算されます。
ギャップ部分は金属ではないため透磁率が一定となり、単純な計算で済みます。
ポールピースとヨーク枠についてはヒステリシス特性により透磁率が一定と
なりませんので計算に工夫が必要です。
金属部分については以下のように計算します。
各部の断面積と磁束は分かっていますので磁束密度が計算できます。
まずはGap部分の磁束密度Bgp=0.76[T] からGap部分の総磁束Φ[Wb] を
計算します。
Φ[Wb] =Bgp×Sgp=0.76[T] ×0.001390155[㎡]=0.001056518[Wb]
各部の磁束密度B[T]
ポールピース(主部)
Bpp[T] =Φ/Spp
    =0.001056518/0.000615752=1.715816[T]
※ちゃんとSS400材の飽和磁束密度1.8[T] より]少し小さな値になっています。
ポールピース(つばの部分)
※今回の設計には反映されていませんが、よくポールピースの先端を横から見て
 T字型になるような”ツバ”を付けた設計例が見られます。この部分を計算します。
Bpt[T] =Φ/Spt
    =0.001056518/0.001319469
    =0.800714286[T]
ヨーク枠部分
Byk[T]=Φ/Syk
    =0.001056518/0.00198
    =0.534[T]
各部の磁束密度が計算できましたので、そこから磁界の強さを導き出さいます。
この部分は地道にSS400材料のヒステリシス曲線(B-H特性曲線)からグラフを
たどって導き出します。
各部の磁界の強さH[A/m],透磁率[H/m],比透磁率 は次のようになります。
ポールピース(主部)
Bpp=1.715816[T]  ⇒ Hpp=8090.816327[A/m]
透磁率=Bpp/Hpp=0.00021207[H/m]
比透磁率=透磁率/真空の透磁率=0.00021207/(4π×(E-7))=168.7599
※SS400の最大透磁率は数1,000と言われているが、ポールピースではこの値が
減退している、これは高い磁界をかけて飽和寸前の状態で使っている為
透磁率が寝てしまう領域を使っていることを意味している。
ポールピース(つばの部分)
Bpt=0.800714286[T]  ⇒ Hpt=88.96825397[A/m]
透磁率=Bpt/Hpt=0.009
比透磁率=7161.9724
ヨーク枠
Byk=0.534[T] ⇒ Hyk=59.2883058[A/m]
透磁率=Bpt/Hpt=0.009
比透磁率=7161.9724
磁界の強さに呼応して変化する透磁率、比透磁率も導き出すことができたため
各部の磁気抵抗を計算できるようになりました。
各部の磁気抵抗Rは次のように計算できます。
R=磁路長/(透磁率×断面積)
ポールピース(主部)
Rpp=102×0.001/(0.00021207×0.00061572)
  =781116.4319[A/Wb]
ポールピース(つばの部分)
Rpt=0×0.001/(0.009×0.00139469)
  =0[A/Wb]
(今回の設計のユニットにはツバの部分はありません)
ヨーク枠
Ryk=216×0.001/(0.009×0.00198)
  =12121.21212[A/Wb]
最初に計算したギャップ部分の磁気抵抗
Rgp=858654.099[A/Wb]
なので
磁気回路の総抵抗Rmは
Rm=Rgp+Rpp+Rpt+Rykより
Rm[A/m]=781116.4319+0+12121.21212+858654.0987
    =1651891.743[A/Wb]
となります。
必要な起磁力を計算します。
起磁力NI=磁束Φ×総磁気抵抗より
    =0.001056518[Wb] ×1651891.743[A/Wb]
    =1745.2527[A] (アンペア・ターン)
です。
実際の電流は起磁力NIをコイル巻き数(推定24,265)で割れば求められるので
I=0.07193[A]となりました。
この時のコイル電圧Vcは約198V,コイルの消費電力は14.23Wです。
製作途中で試聴に使用した設定値はどのようなものだったのでしょう?
以前の記事によるとフィールドコイル電流62[mA]フィールドコイル電圧210[V]程度の設定をしていた時期があります。
この時どのような状態で作動していたのでしょうか?
エクセルシートの目標ギャップ磁束密度の設定値を変更して電流が一番近い値になるところを
探してみました。
結果、ギャップ部の磁束密度を0.7355[T] を設定したとき、フィールドコイル電流が約62mAと
なりますが、電圧は210[V]に対して計算結果は170[V] となりました。
電圧の誤差(あるいは電流の誤差?)が少し大きくなってしまいました。
上記のパラメータ設定においてコイルの巻き数は推定値であること、またコイルの抵抗値は
温度によってばらつきがあること、何よりも一番大きな誤差原因はSS400材のB-Hカーブが
どこかのサイトからの借り物のため、現実のものと乖離している可能性があります。
電流値を大きく振ってみてN数を増やして統計を取るなりすれば、精度の向上は可能かと考えます。
エクセルシートを使って次号機の磁気回路の設計を行ってみたいと思います。

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