フィールド型フルレンジユニット2号機の設計・製作(2)  磁気回路設計

若干弱かった1号機の磁気回路を見直すことが2号機の主な改良点です。
ギャップ部分の磁束密度の強化を目的として次の3点の変更を行いました。
1)ポールピース径の拡大(φ28からφ38へ)
2)ポールピース材質の変更(SS400から電磁純鉄へ)
3)ギャップの厚みを薄くする(15mmから12mmへ)
これらを反映した2号機のユニット磁気回路部にまつわる諸元一覧です。
この先の磁気回路に関する各種の計算は以前の記事とできるだけ同じ構成にして
比較ができるようにします。
ポールピース部
・形状は丸棒(φ38mm,長さ100mm)
・材質は電磁純鉄
・一部直径減退(38mm→34mm)  理由は後述します。
ヨーク部(トッププレート)
・トッププレートのサイズ=125mm×120mm(12mm厚)SS400材
ヨーク部(その他)
・ボトムプレートのサイズ=125mm×120mm(9mm厚)SS400材
・サイドプレートのサイズ=88mm×120mm(9mm厚)SS400材
ギャップ部
・ヨークのトッププレート側穴径はφ41mm
 (ポールピースがφ38mmのためギャップ幅Lgpは(φ41-φ38)/2=1.5mm
・ギャップ厚み=トッププレート厚み=12mm
フィールドコイル部
・エナメル線径=0.18mm
・コイル線長=4,160m
・コイル直流抵抗=2,974Ω(計算値)
・コイル巻き数=21,038回(推定計算値)
です。
これに
・真空の透磁率=4π×(E-7)=1.25664×(E-6) [H/m]
・SS400の飽和磁束密度=1.8[T] (18,000[Gauss])
・電磁純鉄の飽和磁束密度=2.2[T] (22,000[Gauss])  SS400の1.2倍程度
(※磁性材料の飽和磁束密度はいろいろな文献を調べた結果をもとに自分で導き出した推定値です)
を加味して計算を進めます。
実際はエクセルの専用シミュレータを作成して以下の計算を行わせています。
最初に計算するのはギャップ部分に発生させることが可能な最大磁束密度です。
磁気回路中、ギャップ部分をのぞいて磁気が通る方向に垂直な断面積を考えます。
ポールピースの断面積は一部の直径を減退していますのでこの細くなった部分の
直径34mmから
断面積Spp=17*17*3.15/1000000=9.07×(E-4)[㎡]
厚さ9mmのサイドプレートの断面積
Ssp=9*120/1000000=1.08×(E-3)[㎡]
純鉄とSS400の飽和磁束密度の差は1.2倍程度と設定していますので
9.07×1.2=1.088≒1.08×10
となります。ポールピースの細い部分とヨークの薄い部分を透過できる磁束数は
ほぼ同値であるといえます。即ちポールピースの細い部分が磁気飽和した時に得られるギャップ部の
磁束密度を最大磁束密度と言ってよいと考えられます。
ポールピースの断面積は
(φ34/2)×(φ34/2)×π/1,000,000=0.00090792[㎡]
です。これに電磁純鉄の飽和磁束密度を掛けるとポールピース飽和時の
通過磁束Φ[Wb]が計算できます。
Φ[Wb]=0.00090792[㎡]×2.2[T]=0.001997425[Wb]
この磁束が連続してGap部分に到達すると考えてこれがすべてヴォイスコイル周上(φ39.5)の
厚さ12mmの円筒面を通過する場合、この円筒の断面積Svc[㎡]は0.001489115[㎡]ですから
Gap部分の最大磁束密度Bgp(Max)[T] は
Bgp(Max)[T]=Φ[Wb]/Svc[㎡]=0.001995972/0.001489115=1.3403747[T]
となります。即ち約13,400 [Gauss]です。
これはフィールドコイルの励磁条件をいくらあげていってもポールピースが磁気飽和
してしまうため、ギャップ部分では上記以上の磁束密度が得られないという結論を
意味します。1号機の約8,000ガウスと比較すると非常に大きな値を得ることが
できます。
最大磁束密度(上限)が規定されている磁気回路において必要な磁束密度を改めて設定し、
それに対して必要なフィールド電力について計算します。
前回と同じシミュレータの入力パラメータを今回の磁気回路に書き換えて
飽和磁束密度を若干下回る1.3[T]=13,000[Gauss] で計算してみたところ
フィールドコイルの電力が48[W]を超えてしまいました。(おおよそ380V-0.13A)
フィールドコイルに必要な電力を安全に供給できれば、磁気回路自体のポテンシャルは
高くギャップの磁束密度13,400[Gauss] も達成可能ということがわかりましたが
私の作ったフィールドユニット用の電源供給装置では25W程度までしか電力を
供給できないこと、またφ0.18のエナメル線の許容電流は80-90mA程度が限界かと
考えますので、ギャップ部の最大磁束密度を1.18[T] =11,800[Gauss]として電流値を
抑える方向で再計算しました。
フィールドコイルに供給された電力を源とした起磁力により、磁束ができます。
この磁束は磁気回路に沿って1周する閉回路となっています。電気の場合の電流と同じように
磁気回路を1周する間に枝分かれがない限り磁束の総数は不変と考えます。
(磁力線に漏れがないという意味になりますので少し無理がありますが計算式の
簡略化のために我慢します)
即ちポールピース部分の磁束=ギャップ部分の磁束=ヨーク枠部分の磁束
と考えることを基本とし、この関係性から各部の磁気抵抗を算出します。
ギャップ部分の磁気抵抗Rgpは
Rgp=Lgp(ギャップ幅)/{真空の透磁率×断面積}
=1.5×0.001/(1.25664×E(-6)×0.001489115)
=801592[A/Wb]
と計算されます。
ギャップ部分は金属ではないため透磁率が一定となり、単純な計算で済みます。
ポールピースとヨーク枠についてはヒステリシス特性により透磁率が一定と
なりませんので計算に工夫が必要です。
金属部分については以下のように計算します。
各部の断面積と磁束は分かっていますので磁束密度が計算できます。
まずはGap部分の磁束密度Bgp=1.18[T] からGap部分の総磁束Φ[Wb] を
計算します。
Φ[Wb] =Bgp×Sgp=1.18[T] ×0.001489115[㎡]=0.001757156[Wb]
各部の磁束密度B[T]
ポールピース(主部)
Bpp[T] =Φ/Spp
    =0.001757156/0.00090792=1.935363[T]
※ちゃんと電磁純鉄材の飽和磁束密度2.2[T] より]少し小さな値になっています。
ポールピース(つばの部分)
ポールピースの直径について一部をφ34まで減退させていますが、これは磁気ギャップにつながる
部分がT字型になるような”ツバ”を付けたかったためです。このツバ部分を計算します。
Bpt[T] =Φ/Spt
    =0.001757156/(12×(19+17)/2*π/1,000,000))
    =1.29472[T]
ヨーク枠部分(Top Plate)
Btp[T]=Φ/Stp
    =0.001757156/0.00288
    =0.610[T]
ヨーク枠部分(Top Plate以外)
Btp[T]=Φ/Stp
    =0.001757156/0.00216
    =0.813[T]
各部の磁束密度が計算できましたので、そこから磁界の強さを導き出さいます。
この部分は地道に電磁純鉄およびSS400材料のヒステリシス曲線(B-H特性曲線)からグラフを
たどって導き出します。
各部の磁界の強さH[A/m],透磁率[H/m],比透磁率 は次のようになります。
ポールピース(主部)
Bpp=1.935363[T]  ⇒ Hpp=4426.7589[A/m]
透磁率=Bpp/Hpp=0.000437196[H/m]
比透磁率=透磁率/真空の透磁率=0.000437196/(4π×(E-7))=347.9099
※電磁純鉄の最大透磁率は数1,000と言われているが、ポールピースではこの値が
減退している、これは高い磁界をかけて飽和寸前の状態で使っている為
透磁率が寝てしまう領域を使っていることを意味していると思います。
ポールピース(つばの部分)
Bpt=1.2947222[T]  ⇒ Hpt=171.5740741[A/m]
透磁率=Bpt/Hpt=0.007546141[H/m]
比透磁率=6005.028519
ヨーク枠(Top Plate)
Btp=0.610[T] ⇒ Htp=56.49291419[A/m]
透磁率=Bpt/Hpt=0.0108[H/m]
比透磁率=8594.366927
ヨーク枠(Top Plate以外)
Byk=0.813[T] ⇒ Hyk=90.38866271[A/m]
透磁率=Bpt/Hpt=0.009[H/m]
比透磁率=7161.972439
磁界の強さに呼応して変化する透磁率、比透磁率も導き出すことができたため
各部の磁気抵抗を計算できるようになりました。
各部の磁気抵抗Rは次のように計算できます。
R=磁路長/(透磁率×断面積)
ポールピース(主部)
Rpp=100×0.001/(0.000437196×0.00090792)
  =251927.5431[A/Wb]
ポールピース(つばの部分)
Rpt=2×0.001/(0.007546141×0.001357168)
  =195.2861474[A/Wb]
ヨーク枠(Top Plate)
Rtp=58×0.001/(0.0108×0.00288)
  =1864.711934[A/Wb]
ヨーク枠(Top Plate以外)
Ryk=156.5×0.001/(0.009×0.00216)
  =8050.41152[A/Wb]
最初に計算したギャップ部分の磁気抵抗
Rgp=801591.6427[A/Wb]
なので
磁気回路の総抵抗Rmは
Rm=Rgp+Rpp+Rpt+Rtp+Rykより
Rm[A/m]=801591.6427+251927.5431+195.2861474+1864.711934+8050.41152
    =1063629.595[A/Wb]
となります。
必要な起磁力を計算します。
起磁力NI=磁束Φ×総磁気抵抗より
    =0.001757156[Wb] ×1063629.595[A/Wb]
    =1868.963125[A] (アンペア・ターン)
です。
実際の電流は起磁力NIをコイル巻き数(推定21,038)で割れば求められるので
I=0.0888[A]となりました。
この時のコイル電圧Vcは約264V,コイルの消費電力は23.48Wです。
実際の電流値と比較してみましょう。
130V-40mA=5.2W   (このあたりでも十分に音量が出ます)
150V-50mA=7.5W
180V-60mA=10.8W  (フルレンジ使用ではこのあたりが音質的に自分の好み)
200V-70mA=14.0W
240V-80mA=19.2W
260V-90mA=23.4W
励磁電流90mA時の電圧特性は計算値に非常に近いことがわかりました。
ギャップ部の磁束密度の設定値をいくつか選んでその時の励磁電流,電圧を
計算してみました。
7,000Gauss→121V-40.8mA=4.95W
8,000Gauss→139V-46.8mA=6.52W
9,000Gauss→158V-53.0mA=8.37W
10,000Gauss→180V-60.2mA=10.79W
11,000Gauss→215V-72.3mA=15.54W
11,800Gauss→264V-88.8mA=23.47W
12,000Gauss→281V-94.3mA=26.46W
実際の励磁電流、電圧値の特性にかなり近い値が導き出せているようです。
いつかガウスメーターを手に入れたらギャップの磁束密度を計測して
計算結果の確からしさを調べてみたいと思います。

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