この章ではレコード再生のイコライジングカーブについて、現在の標準となっているRIAA及び各レコードレーベルがかつて採用していた再生イコライザーの種類とそのイコライゼーションカーブについてまとめて記述します。
RIAAやそれ以外のカーブについてそれぞれの特性を調べていくうちにイコライジングカーブの特性表し方に少し興味をおぼえましたのでまずは記述します。
イコライザーの回路設計を行うとき、再生用イコライザーの特性を決定づける要素としてローリミット、ターンオーバー、ロールオフの周波数や、それと対をなす時定数を求めて、必要なL,C,Rといった回路の構成要素を計算します。各種のカーブを調べていくとこれらのカーブを定義している情報が必ずしも上記の3要素で語られない場合がほとんどであることに気づきました。
再生イコライザー特性の記述例: RIAA=500R-13.7
上記のRIAA再生特性を示す500R-13.7について要素を500,R,-13.7の3つに分解します。この3要素を解釈すると回路計算に必要なローリミット、ターンオーバー、ロールオフの周波数や、それと対をなす時定数を導き出すことができます。皆さんお気づきの事かと思いますが第1要素の500はターンオーバーを周波数で単純に表したものです。この例では再生イコライジングカーブは1kHzの再生周波数基準点からだんだん周波数が下がっていって、この500Hzの点から低域上昇(6dB/oct)が発生すると解釈します。第2要素は信号の上昇幅(量)を示しています。RIAAを回路設計の視点で解析すると、ターンオーバーのポイントである500Hzからローリミットである50Hzの間の区間で信号は6dB/oct(言換えると20dB/dec)で上昇します。余談ですがオクターブで6dB上昇・下降のスロープとはすなわち周波数が2(1/2)倍になるとゲインも2(1/2)倍になるという比率を持った直線が対数表記の周波数を横軸としたグラフ上に描かれます。
倍数とdBの関係
dB=20log(倍数) 2倍を表すdBは 20log(2)=6.0206 ・・・logの底は10です。
よく言う6dB/octというのは 正確に言うと6.0206dB/octということです。
周波数2倍でゲインが2倍の時、この上昇率で周波数が10倍になるときゲインは10倍となりますので
10倍をdBで表すと 20log(10)=20.0 となります。 6dB/octと20dB/decが同じ傾斜を示すことがお分かりいただけると思います。 第2要素の本題に戻ると、RIAAカーブの低域上昇量は50Hzのローリミットと500Hzのターンオーバーの間の周波数が10倍になる区間で6dB/Octで信号が減衰します。この区間の減衰量は20dBでありこの20という値を”R”という文字で置き換えています。20をRであらわしている理由は他のカーブも含めて後述します。第3要素の”-13.7″については高域の10kHzのポイントにおける信号減衰量を示しています。すなわち10kHzでは1kHzに比べて RIAAの場合T3は75μsecとされていますのでf3は2122Hzです。10kHzとの周波数比率は4.713倍となり 20log(4.713)=13.5が導き出されます(減衰量を直線で近似した値)。値はかなり近いものとなってはいますが、このパラメータそのものを回路設計の計算値に直接代入することは難しそうです。ただし自分で以前作成したシミュレータ(減衰量を曲線で描く)にてT3=75μsecを代入した理想”カーブ”の減衰量はー13.73dBと計算できていますので回路設計後の結果確認の比較用にこの値を使うことは問題ないと思います。
RIAA以外の代表的なイコライジングカーブの特性表記を下に記述します。
AES=400N-12
NAB=500B-16
COLUMBIA LP=500C-16
FFRR=500C-10.5 ※1
Old Orthophonic=500N-12.7
RCA=800N-12.7
これ以外のカーブも確認しましたが、第2要素の部分に着目するとN,B,C,とRIAAで出てきたRの4種類にほぼ集約されているようです。この4文字についてローリミットとの関連性を調べたところ
N=ローリミットなし
B=71Hz
C=100Hz
R=50Hz
と定義されているようです。N=NoneのN, B=NABのB, C=COLUMBIA LPのC, R=RIAAのRだと解釈できそうです。またターンオーバー周波数が500Hzではないカーブについて上のリストでは400Hz,800Hzの例がありますが、マイナーなカーブではそれ以外のターンオーバー周波数を設定しているものがあります。しかしながらターンオーバー周波数が500Hz以外の場合のすべてのカーブは2文字目が必ずNになっている(ローリミットなし)模様です。
※1 ffrrについてはローリミットを125Hzとする資料も見つけたので上記の100Hzが正しいのか125Hzが正しいのかの結論には至っていません。
ここで各種のイコライザーカーブの設定をターンオーバー側とロールオフ側に分けて掲載します。
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