600Ω定インピーダンス型LCRイコライザユニットの設計・製作 番外編①

 本日は番外編です。
今回製作したLCRイコライザユニットはターンオーバー7種類×ロールオフ4種類の組み合わせが可能でLP登場以降の主要なイコライジング・カーブに対応できる設計となっています。現在製作完了し、試運転を兼ね各レーベルのレコードを取り出してはカーブとの組み合わせを探っています。その途上でいろいろなサイトの情報を見ながらどのレーベルはどのカーブがマッチングしそうか試しています。その作業を行っているうちに気になった点があります。それは一部の市販のイコライザーがターンオーバー側のターンオーバー時定数切替とLow Limit時定数切り替えを独立したスイッチで操作できるようになっている点です。一般的なLCRイコライザユニットはブリッジTの定インピーダンス回路を2段で重ねて1段目はターンオーバーとLow Limtを実現する回路、2段目はロールオフを実現する回路となっており、私が設計製作したものもこのタイプです。1段目のブリッジT回路の定数決定の要素はターンオバーとLow Limitの2要素から減衰定数Kを算出したうえで決定されますのでこの段のセレクタはこの2要素を加味した組み合わせで同時切替となっています。
これは例えばRIAAとColumbiaはターンオーバーは500Hzで同じでもLow Limitが RIAA=50Hz, Columbia=100Hzなので別のセレクタポジションであるということになります。これを別セレクタで実現するとLow Limitが50Hzと100Hzの2ポジション、ターンオーバーは共通の500Hzといった感じです。
そこで今回考察したのは低域側のブリッジT回路をLow Limitとターンオーバーで分けることができないかという点です。ただし今回の考察は自分のメモ代わりでこのサイトに訪問いただいた方の大多数にはまったくもって意味のないことですので、よほど興味のある方以外は読み飛ばしてください。
一般のLCRイコライザのターンオーバー/Low Limt部分の周波数特性をグラフ化すると次のようになります。

これにロールオフを組み合わせて全体のイコライジングカーブを実現します。今回の考察はロールオフ部分はそのままに、ターンオーバー/Low Limt部分を2つの回路に分離することです。
実現にあたっては2つの方法が考えられます。
パターンA
 Low Limitを肩にしてその上の周波数を6dB/Octで減衰させる
 (Low Limitより下はフラット)
 +ターンオーバーから上の周波数を6dB/octで増強する。
パターンB
 Low Limitの上の周波数は平坦特性として、Low Limitより下の周波数を6dB/octで減衰させる。
 + 0Hz近傍より6dB/oct下がりでターンオーバーにて下げ止まり。その上の周波数はフラットにする。
上にあげた2方式それぞれについて解析してみました。Low Limit部とターンオーバー部を分離しましたが実際にはパターンA,Bともにこの後にロールオフの回路が接続されます。
パターンAの回路

パターンAの解析
Low Limitの肩特性
このカーブは通常のLCR EQのロールオフ周波数より上の部分を6dB/octでカットする特性カーブと同じ方法で実現できます。この際ロールオフで使った時定数をLow Limitの時定数に置き換えればLow Limit周波数を肩に持った減衰カーブが得られます。ただしLow Limitが存在しないストレート減衰を得ようとするとL、Cの値が非常に大きくなります。またストレートを実現する場合、挿入損失がかなり大きな値となります。

※Old RCAの低域には本来Low Limitの設定はありませんが損失無限大となってしまうため、便宜的に5Hzに設定しています。これを低い周波数にすればするほど挿入損失は増加してしまいます。
ターンオーバー部の実現。
ターンオーバー周波数以下をフラット、以上の部分を6dB/octで増強するカーブを実現するということですが、パッシブ回路での信号増強は言い換えると増強に必要なゲイン相当部分をフラット部分にて先に減衰させて、増強する周波数帯は減衰量を6dB/octでだんだん減らしていくことを意味します。RIAAの場合ターンオーバー500Hzに対して例えば可聴帯域外の50kHzまでこの増強を続けると仮定すると周波数比100倍となります。6dB/oct=20dB/decで増強すると50kHzでは40dBの増強が必要となります。これは言い換えるとこの場合の挿入損失は40dBということになってしまします。SN比の面でも好ましいものではないということがわかります。今の例では50kHzに増強終了点を置きましたが、そこにはゼロ点が配置されるのでその部分の誤差は3dB増強が足りなくなります。それは即ち高域部分では高域の増強部分が不足がちとなることを意味します。この特性を延ばすには増強終了の周波数を上げればいいのですが、これを行うと引き換えにまた挿入損失が増えてしまうということです。50kHzを100kHzにあげると挿入損失は6dB増加し46dBとなってしまいます。

※ターンオーバーの周波数が低いほど50kHzに対するK値が大きくなるため損失が増えてしまう。
ロールオフは2段構成時と同じです。


3段のブリッジTの挿入損失を合成すると以下のようになります。

最低域を見てもらえばわかりますが、その部分での損失は40dB+を示していて、それがこの回路の挿入損失となってしまいます。
イメージ図で示すと以下のようになります。



パターンBの回路

パターンBの解析
低域減衰部分はブリッジT回路の直列側にC、並列側にLを配置し、R3を削除します。通常のLCRイコライザのロールオフのLとCを入れ替えた形の回路です。ここでT2にLow Limit周波数、T1にOHz近傍を代入すればLow Limit周波数から低い方の周波数は6dB/octで減衰。Low Limitより上の周波数はフラットになります。ここでの挿入損失はLow Limit周波数以上の領域で0dBです。(Flat時はCシャント、LオープンでOKです。)

Low Limit部分は先の回路に任せているため第2回路の部分はターンオーバー周波数以下を一律6dB/octスロープの減衰として、ターンオーバー以上の部分はフラット特性とする必要があります。これを実現する回路は通常のLCRイコライザのターンオーバー回路と同じもので、T1の設定をLow Limitの代わりにできるだけ低い(0に近い)周波数を入れることでOKですが、0Hzに近ければ近いほどL,C値が大きくなってしまうという点とこの部分(0Hz近傍)の挿入損失に関してはパターンAのLow Limit肩特性の部分と変わりないことになってしまいます。この0Hz近傍を欲張ると挿入損失は大きくなってしまいますが、数Hzレベルであれば我慢できる範疇です。また、パターンAの回路であったターンオーバー以上の周波数領域での40dB以上あったゲイン差を吸収するための挿入損失は0になりますのでTotalではパターンAの回路と比べて40dB以上挿入損失が少なくなるので実用性としてはまあまあといったところでしょうか。
前言を訂正します。低域側の極点は最低でも2Hz近傍までは下げないと直線性が確保できないようです。2.1Hzにした場合のターンオーバー特性を下に示します。

直線性確保のため極点の周波数を下げたため、10Hzの挿入損失が14dB程度まで大きくなってしまっています。
ロールオフはパターンAと同じなので割愛して総合特性を下に示します。

Low Limit、ターンオーバーそれぞれ10Hzあたりで14,5dBの損失がありTotalの損失はRIAAの場合で27.8dBあります。パターンAと比べると12dBほど改善していますが、通常の2段LCRで充分の性能が得られているので3段回路の必然性は薄いといえるでしょう。
総合特性のイメージ図です。

結局のところ、最低周波数領域にはLow Limitの極点とターンオーバーの極点が2点配置されていることになるため、2つの極点より低い周波数領域ではフィルタが2段重ねとなり、なだらかな右肩下がりの特性が欲しい部分で逆にゲインが上昇してしまう逆転現象に至るためターンオーバー側の極点をできる限り0Hzに近づける必要があり結果2Hz近傍が限界点となってしまいました。
3段の定インピーダンスブリッジTによる、イコライザ回路は各段度との設定が独立してできるメリットと挿入損失が通常の2段タイプと比べて大きいことの兼ね合いで決めるということになります。Low Limtとターンオーバーの組み合わせ数に合わせてLCRを用意するのは簡単ではないので、多数の組み合わせが必要な人には考慮に値するものでしょう。
ひとまずこの状態で公開しますが、もう少し詳細データを追記する予定です。
改めて通常の2段構成LCRイコライザの特性チャートを添付しておきます。

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